夏の魔法は溶けなかった
ここ数日ふと私の心にやって来て
そうかと思えばいつのまにか去っているそんな感情がある。
それはまるで夕立のように、ある日突然なんの前触れもなく私に降ってきた。後に残るのは雨上がりの清々しい青空と、湿気の中に漂うあの独特な雨の匂いのような、複雑な感情。
いったいこの感情がなんなのか、どこから来たものかわからない。
ただひとつわかることは、この感情を持っていても私は幸せにはなれないということ。
私どころか、私の大切な人たちも。
だからこれは早々に捨てなくてはならない感情だ。
捨てなくてはならないとわかっているのに。
危ないものに手を出したくなってしまうが人の性なのだろうか。
魔法みたい。
正体を掴めない魔法の解き方なんてわかるはずがない。
どうしたものか。
きっと夏のせいなのだろう。
この堪え難い暑さと、情緒不安定な空模様と、夏特有の高揚感のせいだ。きっとそうだ。
解き方が分からないのだから、いっそ夏の暑さで溶けてしまえばいい。いつのまにかひとまわりも、ふたまわりも小さくなっていたかき氷を見て思った。
でも今日も、夏の魔法は溶けないまま。